Focus

早川亜由子さんご本人による作品解説

販売中のご自身の作品から3点ピックアップしていただき、秘められた制作の裏側、込められた想いをお伺いしました。

「雲のこと」
油彩、キャンバス
横 91cm × 縦 72.7cm (F30号)

童心に帰るノスタルジックな作品
テディベアのシリーズは描き手も、描いた情景も、童心に返るようなテーマになっています。

幼い頃、自分が癒される場面をよく描いていたように思うのですが、この絵もそうなんです。例えば、雨上がりに虹を見てほっとしたとか、すごく寒い日、家に帰ってきたらお母さんがけんちん汁を作っておいてくれて嬉しかったとか、そういう気持ちを思い出しながら、その場面場面を作っていたように思います。思い出の温かさのようなものを味わいながら描いたので、そういったノスタルジックな雰囲気が、観てくださる方にも伝わると嬉しいですね。

テディベアは元々、自分がどろんこ遊びをするような感覚で、絵が描きたくてたまらなくて描いた作品なんです。子供の頃は、「楽しい」・「癒される」・「こういう場面をこう描きたい」という自由でシンプルな気持ちで描いていたので、同じような童心で描くのがこのシリーズですね。描く行為自体が癒しで、ニコニコしながら描いていた、描きながらそんなシチュエーションを思い出して、その感覚を追体験しているような気がします。

 

「Cascade」
油彩、キャンバス
横 91cm × 縦 72.7cm (F30号)

描いていて癒される浮遊の空間
光に透けるクラゲをたくさん描いた、群馬県展入賞作品です

クラゲは、皆さんも観ていて「幻想的だ」という想いを抱くのではないかと思います。すごく不思議な生物ですよね。泳いでいるように見えて実際は泳いでいない、脳もなければ心臓もない、ただただ生きているだけ、神経の塊みたいな生物、それなのに自分を守るための毒という道具を備えている。「これが一番シンプルな生き方なんだ」と、なんだか哲学的な生き物だと思ったんです。生きることの意味深さを感じてモチーフに選びました。人間のように意志がないのは悲しい生き物なのかな、空しいのかなと思いながらも、見ている人が魅せられている、そんな姿を捉えたい、というのが、このクラゲシリーズです。

もちろん姿形も好きです。ただただ本当に綺麗ですよね。こちらはインドネシアンシーネットルという水族館でもよく展示されているクラゲで、触手がとても長くて綺麗なんです。いろいろなクラゲを見ていて、まだまだ描きたいクラゲがいっぱいいます。

背景にある文字は、古本屋で購入した今昔物語などの古書をコラージュしています。和紙を貼ることによって出る風合いが好きで、画面構成の一つの要素としてデザインしています。

文字の雰囲気と、透明感のある色を使っているのもあって、水彩や日本画のように見える、とたまに言われますね。油絵はだいたい厚く重ねて、不透明に描く技法だと思っていらっしゃる方が多いかもしれませんが、グレージング※1と言って、透明の絵の具を塗り重ねていく技法もあるんですね。この作品は、その両方を使って完成させました。画面が退屈にならないようにいろいろな方法を試しています。

油絵の特性がいろんな部分で生かされているからこそ、この絵はマチエール※2がそれほどなくても深みや重みのある作品になっていると思います。

※1 グレージング:透明または半透明の絵具を重ね塗りすることで、色彩の深みや光の効果を生み出す絵画技法の一つ

※2 マチエール:凸凹して盛り上がっている、物質感が感じられる絵肌のこと

「Fantasmagoria in the morning」
油彩、キャンバス
横 91cm × 縦 72.7cm (F30号)

魅力的な透明世界
抽象表現のようにも見えますが、ビー玉を描いた作品です。光に透かせて光っている、その美しいところを表現したいと思い、太陽やライトに透かすなどしてたくさん撮影し、何枚も何枚も描いたうちの一枚です。背景も全て具体物を描いていて、ビー玉の他にビーズなどを瓶に詰めて撮影したものなんです。オブジェみたいにしたものを画面いっぱいに広げるイメージですね。

ビー玉は綺麗ですが、ただ転がしたビー玉を描くのでは面白くないと思い、それでオブジェとして接写してみたら面白くて。背景も同じで、うまくぼかして、浮遊感も感じられるようにしました。

普段から、何か面白いものはないかな、とモチーフを探していますが、もともと逆光や透けて見えるものが好きで、美しさを感じますね。先ほどのクラゲもそうなのですが、幻想的で綺麗で、眺めているとあっという間に時間が経ってしまいます。日々を過ごしている中で私が描きたいものは、浮かんでいる、光っているものなのかな、と気付いたきっかけの作品でもあります。

早川亜由子

早川亜由子

幻想的でありながら抽象的ではない、日本画や水彩画のようにも見える軽やかな雰囲気を持ちながらもずっしりと重たい油絵。そんな不思議な作品世界でありながら、眺めていると作家と同じ世界に浮遊できる、吸い込まれるような魅力ある作品を描いている。

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