Interview

課題をこなす日々だからこそ実感できた創作意欲|本来の想いを取り戻すオリジナル絵画の制作

はっきりとした輪郭線、丁寧なベタ塗りの色面で、どことなくデジタル世界に存在しているような人物画等を描かれているARIさん。独特な世界観を持つ絵画の世界に引き込まれます。どのような経験や想いから現在に至るのか、その背景を伺いました。

幼い頃から絵画教室に通い、そのまま美術漬けの生活に

ー絵を描き始めたきっかけを教えてください。
幼い頃から自由帳に絵を描いたり、年賀状の絵を自分で描いたりしていて、小学校4年生からデッサン教室に通い始めました。小・中・高とそのままずっと続けて、美術大学に進学し、そこから美術漬けの生活ですね。

大学では実技課題がとても多く、特に1年生の頃は同時期にいくつもの課題を抱えてそればかりをやっていたら、最初のきっかけになった絵を描く楽しさとか、創作意欲みたいなものをどんどん忘れていくように感じたんです。課題では発散しきれない創作意欲というか、純粋に自分が好きなものを作りたいという気持ちが溢れてきて、キャンバスに絵を描くようになりました。つい最近、ここ2、3年のことですね。

ー小学生の時、絵の教室で何を描いていたんですか?
風景・人物の写真の模写や、先生が組んでくれた机上のオブジェをデッサンしたり、教室にあるオブジェの中から自分で選んで並べて描いたり、幅広くいろいろなことをさせてもらいました。自由度が高かったですね。教室では絵の具を使ったことはなく、ずっと鉛筆で描いていました。今は絵の具も大好きですが、昔はあまり好きじゃなかったんですよ。

近頃はほとんど行けていませんが、今でも在籍しています。美大の入試でデッサンが必要だったので、高校からは絵画教室に通いながら美大予備校にも通い、両方でデッサンを描いていました。

絵画教室で制作されたデッサン『鎌首』(写真模写 2019年10月制作)

ー大学ではなぜデザインを専攻されたのですか?
一番は就職のことを考えてですね。クリエイター職の需要が高まっているので、デザイン系は就職先に恵まれているんです。何かしら手に職をつけられるだろうと考えて専攻しました。絵を描くだけではなく、物作り全般をやりたい気持ちもありましたね。

ただ、課題がとても多い学部でしたので、特に1年生の頃は本当に大変でした。例えばプロダクトデザインの課題で、10枚組のお皿をCGで作り、それをディレクションして撮影、最終的に一つの冊子にまとめる、という、デザイン・ディレクション・製本まで全部、というのが本当に本当に大変で、よく覚えています。考えることも実行することもすごく多く、どこかの過程でつまずくと全体で遅れとってしまいますし、そもそものお皿のデザインがよくないと、その後のディレクションが良くても満足のいく作品にならないんですよ。

タイポグラフィを施した完成品の画像

CGソフトを触るのも、プロダクトデザインをすることも初めてだったので全てが手探りで、教授にたくさん質問しながら、友達にも聞きながら、2、3ヶ月かけて完成させました。そういう日々の中で忘れそうになっていた、純粋な「絵を描くことが好き」という気持ちを取り戻したかったのと、先ほどもお話ししたように課題では発散しきれない創作意欲をぶつけるためにも、自主制作を始めました。

ー課題で忙しい中での自主制作とは、さらに忙しくなりますね。
自主制作を始めた当初は両立できるか不安でしたが、やってみると案外忙しくない、ということに気付いたんです。意外とできてしまうというか。時間に余裕がないと思っていても、実際には1時間ぐらいスマホを触っていたり、寝る前にネットサーフィンをしていたり、何もしないで友達と話していたり。もちろんそれも大事な時間ですが、作品制作が入り込む余地がまだまだ残されていることに気付いてモチベーションが生まれましたね。

大学2年生の時に初めて参加したグループ展に出展した作品は、15〜20号の作品を合計6枚、3週間で描いたんです。同時進行で、6つの「〇〇な人」というコンセプトを決めて下描きをして、色塗りをして。淡々と続けていると、当初の予定より余裕を持って完成させることができ、「過密スケジュールでもやればできる」という自信がつきました。アルバイトを一切していなかったので、その点は他の学生さんと比べて環境も恵まれていたとも思います。

作品名「アイ・トゥ・アイ」・グループ展に出展された作品の一つ

表現したいことをそのままに描く楽しさの実感

ー大学課題ではPCでの表現が多いようですが、その日々の中アナログであるアクリル絵の具で制作するようになったきっかけは、何かあるのでしょうか?
受験対策として使い始めたのが最初でしたが、大学で出された描写課題の制作が、その後もアクリル絵の具を使うことになるターニングポイントになっています。

「モネのような印象派絵画を自分なりに解釈して、キャンパス内の風景を描いてみましょう」という課題だったのですが、難しいことはよくわからなかったので、とりあえず何も考えずにどんどん絵の具を置いていったんです。それまでは完成をイメージしながら慎重に描くことが多かったのですが、「ここに赤があるから赤を塗ろう」みたいな感じでペタペタと色を重ねて仕上げてみたら、それが思いのほかうまくいって、学年で1位か2位の成績をいただきました。その次に出された人物描写の課題も同じような方式で制作したものが、また学年2位に選んでいただけたのですが、この課題で使用したのがアクリル絵の具だったんです。水彩絵の具を扱ったこともありましたが、うまくいったものの、時間がかかりすぎてしまうのと、細密描写が続いたので、理想の作風に合わせるのであれば、もうアクリルでドカンと描いてしまえという気持ちでしたね。

大学1年生の時に制作したキャンパスの風景画

それまでは、制作をスタートさせる前にデザインのトレンドを調べたり、他の作家さんを調べて影響を受けたり、事前準備をかなり綿密にしていましたが、この経験から「あまり考えずに絵の具を乗せていった方が楽しい」という感覚が生まれ、結果的にもその方が良いのかもしれない、と感じました。全てを自己完結するイメージですね。絵の具の特性をよく知れたと思いますし、現在の作風の根幹にもなっていると思います。大学で学んだことの延長線上で描いている作品も多くありますしね。

それと、先ほど少しお話したグループ展への参加が大きかったですね。生まれて初めて本格的な自主制作をし、これがまたうまく行き過ぎたというか、すごく良い結果に繋がったんですよ。制作時点では、わかりやすい色でバキバキしたデジタルっぽい作品を作りたいという気持ちがあったぐらいで作風なんてものはなく、作品として成立させるためにひたすら試行錯誤して描き上げました。やり切る努力は大学で培ってきたので、初めてであっても作品自体のクオリティは高いものに仕上げることが出来ましたし、自分の想いを初めて作品として表現できたこの経験が自信に繋がったというか、この方向だったらやっていけるかもしれない、という気持ちになりました。

ー人物画にはモデルがいらっしゃるんですか?
モデルはいないですね。誰もいないです。最初に「〇〇な人を描きたい」みたいなぼんやりとしたイメージが生まれ、制作に取り掛かります。例えば、最新作の『いつまで閉じ込めるつもり?』の2枚は「何となくだるそうな人」と「何となく挑発的な表情をしてる人」を描きたい、というところから始まりました。描き始めてから、自分の経験則の引き出しをどんどん開けていき、何となくダウナーっぽい人ってこういう髪型、こういう目つきをしてるよな、と思い出して、描いては消してを繰り返して塗り固めていく。そうすることで、自分の思う「〇〇な人」が出来上がっていきます。

作品名:「いつまで閉じ込めるつもり?」

ーはっきりとしたコンセプトがある印象ですが、それはどのようにして作られるのですか?
コンセプトは後付けのものがほとんどですね。ストーリーありきの作品というよりは完成した作品を見てストーリーを考えることが多いです。発端は「〇〇な人」というところで描いて、完成したものを見て「この人はこういうきっかけがあってこう感じているのかもしれない」みたいな背景が浮かんできて、そこに自分なりの解釈を加えて設定していきます。完成した作品から、今度は自分が印象を受けて導かれるような感じかもしれません。

鑑賞者にストレスを与えない「わかりやすい絵画」

ー作品に対するこだわりや、マイルールはありますか?
「わかりやすさ」ですね。これを外したらやばい、というぐらいに「わかりやすさ」「明快さ」を大切にしています。自分自身がお客さんとして絵を観た時に、コンセプトまではわからなくても、何を描いているのかわかるぐらいまでには仕上げたいと思っているんです。

一般の方にお見せする場合、純粋に「かっこいいじゃん」という絵の方がお互いの気持ちが伝わりきって嬉しいですし、鑑賞される方もストレスが少ないんじゃないかな、と思うんです。自分の作品は、第一印象で作風をほぼ理解できますし、何となくこういうことを描いたんだろうな、などの解釈も、表情や色使いから読み取りやすいので、そこにあまり個人的な深すぎる想いや、時代を汲んだものは加えないようにしています。

作家が考えていること100%が、絵だけで鑑賞者に伝わることはまずないと思うんですよ。これはある種のあきらめにも近いですが、だからこそ「〇〇な人を描きました。描きたいので描きました。」と、一言で言えるぐらいのテーマの一貫性と、それを最大限に伝えるためのわかりやすい色選び、構図を心がけています。

それと、できるだけ一貫してその作品に向き合い続ける時間を作って一度で描ききるようにしています。1日目は下描き、2日目は色のせ、3日目に修正、みたいな感じで3日間ガチでやりきることが多いです。一気に作ってしまわないと自分の中で「〇〇な人」の人物像が揺れて、完成に持っていけないリスクが生まれてしまうので、自分の中で正解が決まった瞬間に作り上げる、というのは制作するにあたり決めていることでもあります。

ー影響を受けているアーティストはいらっしゃいますか?
いないんです。美大生として、声を大にしては言いにくいですね。影響を受けた作家がいるというよりは、何かを描きたくなった時に、たまたま目に入ったものが参考になっていることが多いです。

例えば「墜落」という作品は、描いている時期にたまたま行った美術館で開催されていたモザイクタイルアートの展示を観て「うわぁ。すごい!」と純粋に感じたことが頭の中に残っていて、こういう表現になったんだと思います。

基本的には誰かや何かを参考にするより、自分で考えて描く方が好きですね。

作品名:「墜落」

ー例えば目の中にある光や頬のハイライトなど、技術面で影響を受けている作品などはあるのでしょうか?
格闘漫画を読むのが好きなのですが、ブチギレているシーンなど力強い画風の方が多いんですよね。誇張された目だけのドアップ、という構図や、太い線で動きを出す、みたいなものが多くて、その作画を参考にすることはあります。

あとは描いていて偶然、これいいかも、と発見することも多いですね。ハイライトを入れてみたり、肌を使ったことのない色で塗ってみたり、目だけ白で塗ってみたり、やってみると案外うまくいくことがあるんです。

想いをそのまま表現した絵画の発表、そして想いを整理するもうひとつの場所づくり

ー今後やってみたいこと、挑戦したいことがありましたら教えてください。
二つありまして、一つは個展です。就職先はマーケティング系ですが、その傍らでアーティストとしての活動も進めながら、個展を開催して実績を持ちたいですね。

もう一つはアーティスト活動とはあまり関係ないのですが、ラジオみたいなものをやってみたいと考えています。SNSで人と話すことが多いのですが、知らない人と繋がって、どうでもいいようなテーマで会話をすることがすごく面白くて、楽しいんですよ。そういうトークメインの活動も、やってみたいですね。内容としては、制作のコンセプトになってる根底部分に関することが多くなると思います。日常生活を過ごす中で、人間関係だったり、人間心理だったり、哲学的なことであったり、頭の中でいろんなことを考えているので、言葉にすることで内容を整理したいという気持ちもあるかもしれません。

日常に起きるあれこれの学術的根拠を探すために、哲学の本を読んだり、心理学の本を読んだりします。自分で考えることに限界を感じた時、いろんな本を読み漁って考えのきっかけやヒントを探すことが、本格的な自主制作を始めて増えたので、そういう話をする場所を作るのも面白いのではないかと考えています。

ーご購入された方に伝えたいことなど、何かありますか?
本当に、ありがとうございます、としか言えないですね。自分は、美大生という括りではイレギュラーかもしれませんが、言ってしまえばどこにでもいる大学生で、何か賞を取ったとか、特別なコンペに出展して実績を残しているわけでもなくて、強い言葉ですけど現段階では何も付加価値がついていない状態なので、純粋に作品だけの価値で買ってくださっているんですよね。本当にありがたいことだと思っていますし、感謝しています。

<取材を終えて>
柔らかい表情と優しい声のトーンでふんわりとした雰囲気をまといながらも、ARIさんには一本ものすごく太い筋が通っている。内に秘めたるエネルギー、オーラはその絵画を見れば感じ取れるが、改めてそれを確信する取材となった。思慮深いパーソナリティが作り上げるこれからの作品を、引き続き楽しみに待ちたい。

ARI

ARI

美術大学入学当時、並行していくつもの課題を忙しくこなすうちに、本来の「絵を描くことが好き」という気持ちを忘れかけていることに気付き、その気持ちを取り戻すため、そして課題では消化しきれない創作意欲を満たすために始めたアナログ制作。その絵画の方向性、奇妙な世界観を放つ人物画が多くの人に受け入れられ、人気を博している。

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