幼い頃、ベランダから見える月を描くことから始まった
ー絵を描き始めたきっかけを教えてください。
物心ついた頃から落書きみたいなことはしていましたが、小学校1、2年生の頃、家のベランダから月が綺麗に見えたんです。その月を学校用の水彩絵の具でしょっちゅう描いていたのが、絵を描き始めた時だと思いますね。絵の具の扱いに慣れていたので、学校の写生大会などで絵を描くと先生が褒めてくれて。嬉しくてどんどん描くようになりました。
当時アニメの銀河鉄道999が流行っていて大好きで、いつも夜になったら空を見て、自分も大人になったら銀河鉄道999に乗って宇宙に行きたいと真剣に考えていて、夢を思い描くような感じでした。望遠鏡でアップにして月だけを見るよりも、月が照らす雲や周りの風景、「夜空に浮かんでいる月」が綺麗なんだな、と思っていました。
ー落書きもしていたとのことですが、それはどのような絵だったのでしょうか?
子供の頃はみんなと同じようにノートや教科書の空いたところに落書きをする程度でしたが高校生になって、北斗の拳とか、週刊ジャンプの漫画がすごく人気があったんですよ。それで見よう見まねで自分も漫画を描くようになって、高校卒業後に漫画家を目指して上京しました。

小山さんが描かれた漫画より抜粋
地元にいるときから、講談社に漫画を送るなどのやり取りをして、漫画家の先生に弟子入りをしたいとお願いして、就職するようなイメージで弟子入りをしました。今考えたらすごくうまいわけではありませんでしたが、自分なりに本格的に漫画を描いていましたね。
アシスタントも含めて約10年を東京で過ごして、何作か雑誌に載せてもらいましたが、結局は漫画家を目指すのを諦めて地元に帰って就職しました。
ー現在はアクリル絵の具で、木製パネルに絵を描かれていますよね。
いえ、ペンキで描いているんですよ。アクリル絵の具も混ぜていますが、メインとしては水性ペンキを使っています。ペンキは彩度が低いので、混ぜてできる色の種類が少なくて限界があるんですよね。例えば紫とかピンクが鮮やかじゃないんですよ。ペンキで出せない色をアクリル絵の具で補うような感じで描いています。
ペンキを混ぜて、あらかじめ30色以上は色を作って容器にストックしています。教えてくれる人がいないので、全部試行錯誤しながら自己流で学んでいます。

ご自身で調色し、ストックされているペンキ
ーなぜペンキを使うのですか?
漫画家をやめて地元に帰って就職して、普通通り働いていた頃に、知人がアイスクリーム屋を始めたんですが、「商店街の裏通りでも目立つようにその壁に絵を描いてくれ」と頼まれたんです。そこで初めて、ペンキを使って壁に絵を描いたんです。
壁画制作なんて全くの未経験でしたが、割と評判が良くて、近所にある他のお店もそれを見て「うちも塗ってよ」と頼まれて描いていました。定期的に、1年毎のペースで描き直していたので、それが仕事をしながらの楽しみでもありました。でもそのアイスクリーム屋がなくなってしまって、描けなくなったんですよ。それで、自分で板に絵を描くことを始めました。今度は、壁に描くのではなく、壁に飾られるような作品を作っていこうと思ったんです。

制作された壁画
ー現在の絵画に至る前に、壁画があるんですね。
大きい方が先ですね。脚立では届かないので足場を組んで、登って絵を描いていました。逆に下の方を描く時は地べたに這いつくばって。楽しかったですよ。そこがスタートなので、キャンバスではなく木板で、絵の具ではなくペンキなんですよね。壁画を描く機会がなくなっても、まだ絵を描くことを続けたかったんです。
ー出品中の作品と壁画では色の雰囲気がかなり異なりますが、これは支持体が変化したことが理由の一つなのでしょうか。
それもありますし、僕が出品している作品は、ほとんどが模様みたいな、抽象的な作品で、壁に飾ってインテリアとして楽しんでいただくような作品として出しているんです。壁画に描いていたような家などの建物を描くなら、かわいらしい雰囲気を出そうとしてかわいい色も使いますが、抽象画の場合はインパクトを与えたいので、濃い色を選びますね。ただ、最近はその画風も変化しています。

新しく始められたという風景画
今はこういった風景画に挑戦しています。僕が住んでいる地元の風景なんですが、これをシリーズ化してどんどん作っていきたいと考えています。
制限をかけた表現が自信のある絵画制作へと繋がっていく
ー木目の模様表現を長く続けていることには、何か理由があるのでしょうか?
あれは、実際のパネルにある木目に沿って描いているんですが、そうすることで、絵に対する自分の意思というか、「こう描くぞ」という考えは色彩でしか表さないことになりますよね。そうすることによって安心して描けたんです。
漫画家になるのを諦めたことで、自分が描くものに対して自信がなくなっていたので、そんな自分が、絵に対する挫折から立ち直るためには、ある程度、自分の意思とは違う「何かで縛られた中での表現」が自分にフィットしたんですよ。挫折して、落ち込んでいる自分が進んでいける道だったんです。「間違いないよ、木目に沿って描いていけば間違いないよ」という声が聞こえる感じでしたね。

作品名:Martian Mercurian
ー前段階である壁画を描いている時の心持ちは、どのようなものでしたか?
壁画の場合は「こんな絵を描いてくれ」という要望があったので、ある程度それに沿って描き上げていくんです。つまりは木目的な指示書みたいなものがあったので作業としてできていましたね。だからそこを描けたというか。
制作後に色彩の意味を探すプロセスを経て絵画が完成する
ー同じ木目での表現でも、それぞれ作品のテーマが様々ですが、こちらはその模様からのインスピレーションなのですか?
いえ、テーマというか作品のストーリーは後から考えるんです。作品を作ったらしばらく自宅に飾っておいて、長い時間をかけてその作品を観ながら「自分が何故この作品を作ったんだろう」と考えて、ストーリーにします。この色にした理由がきっとあるだろう、とその絵を描いた時の自分自身を探していくようなイメージです。
描く前は大まかにテーマを決めます。例えば目の前にある物体の色のコントラストが印象的だから、次の作品はコントラストをテーマにしてみよう、みたいな、ちょっとした理由で決めてスタートして、その後はもう感覚に任せて色を選んで塗っていきます。後から「あの時どうしてこの色をチョイスしたんだろう」って考えるんです。出来事ではなく感覚の日記のようなものかもしれませんね。
抽象的な絵なので、その絵のバックグラウンドというか、こういうことを描いています、というストーリーだけは明確にしたいんです。それが自分のこだわりです。ご購入いただいた方に、ストーリーも併せて持って行ってもらいたいんです。意味を必ず持たせる、これも絵の大事な一部だと思っています。なかなか思いつかなくて苦しいこともありますけどね。
漫画を描くにあたってストーリーを作る必要があるので、いろんな勉強をしたり、考えたりすることが多かったので、恐らく普通は見逃してしまうような小さなものから、考えるきっかけを拾って手繰り寄せて、どんどん調べていくみたいな感じですね。何か出来事があってそこから派生していくような感じ。何でもいろんなことの、理由や目的を探しています。
ー最近は、木目ではない作品もいくつか出品されていますよね。
「wine light」や「cosmopolitan」、「青い花」は木目ではないですね。新しいステージに行こうと思って、木目に一切こだわらず好きなように描き始めましてた。先にお話しした風景画とは違う方向性で、こういう抽象画も並行して描いています。色彩も、何をどう描くかも自由で、好きなように感覚に頼って描いています。最初に木目を無視して描き出した時はドキドキしましたね。大丈夫だろうかと(笑)。

作品名:wine light
ー木目に縛られず、自由に描くことになるきっかけは何かあったのでしょうか?
絵が好きなので、自由に描きたいという気持ちは、当然ずっとあったんです。でもそれをしていいのだろうか、と葛藤していて。ある程度は縛られた中で表現するように言ってくるもう一人の自分がいるのと同時にずっと「そこから自由になりたい」という想いも抱えていたんですよね。
ある時ふと、もういいだろう、と思って試しに描いてみたのがこの「wine light」という作品で、描き上げた時にもう大丈夫だと思ったんです。独り立ちというかね。自分を信じられない故に自由に描くことができなかったので、それを乗り越えられたとうか、人生観が変わるくらい自分にとって大きな出来事でしたね。
昔はそんな風に規則的なことをずっとするようなタイプではなくて、特に漫画を描いていた時代は、結構ぶっ飛んだ作品を描いていたんですよ。「常識を描いたって面白くない」と思って自由にやりすぎて編集者と喧嘩をしたこともありました。振り返るとそういうところが駄目だったのかな、もっと人の言うことを聞いたらよかったのかな、とも思いますけどね。職人気質というか、極端なんですよね。
ー今の画風になるに当たって影響を受けたアーティストはいらっしゃいますか?
正直あまり知らなくて、ゴッホが好き、というぐらいなんです。それも、ここを真似してみようとか、模写をしたとかそういう意味ではなく、ただ好きっていう。
他の人の作品はとてもよく観ていますし、参考にしていますが、断片的に参考にするだけで、特定のアーティストに影響を受けている、ということはあまりないですね。「誰のどの絵」という見方ではなくインスタグラムや絵画サイトにずらっと並んでいる絵をたくさん観て、その中からこの作品のこの部分はどうやって描いているんだろう、とか、そんな風に学ばせてもらっています。皆さんから少しずつ拝借させていただくような感じなので、絵を描いている方全員が僕の師匠みたいな感じですよ。
ー今後やってみたいこと、挑戦したいことがありましたら教えてください。
最初にお話しした風景画、そして「wine light」のような自由な抽象画に加えて、月の絵画シリーズを作りたいと思っています。葛飾北斎がいろんな角度から富士山を描いたように、いろいろな月の風景、夜空を描きたいです。
漫画の1ページのような作品も作りたいですね。コマ割りしてセリフも書いて、ペンキで色をつけるんです。例えば女の子に告白しているシーンでも、何か美味しいものを食べるシーンでも、そういう漫画の1ページをパネルにカラーで描きたいです。人がやっていないことをやっていきたいですね。
それから、海外でも販売してみたいと思っています。意外と海外の人にいいねと言われることが多いので、海外のコンクールなどに出してみたいですね。外国の方がマーケットは大きいですし、ぜひ見てもらいたいと思っています。
ー最後に何か皆さんに伝えたいことはありますか?
絵にする以上、空が青いとは限らない、葉が緑とは限らない、目の前にあるものをどのように表現するかはその人の自由だと思うんです。僕はそんな概念を変えて、空は何色でもいい、でもそれが空に見える、という自由な発想による心情を表現したいですね。それが絵を通して伝えたいことの一つでもあります。皆さんが思ってる固定概念を変えていき、尚且つこれもありだね、と思ってもらえると嬉しいというか、やった!と思う瞬間でもあります。そのように伝えていけるよう、これからも制作に取り組んでいきたいと思っています。
<取材を終えて>
「奇抜な色彩」と「丁寧な色塗り」が共存している原画を何度も拝見し、以前から不思議に思っていたが、話を聞いて、点と点が繋がったような感覚になった。インタビューを受けるにあたり、ご自身の絵画変遷をノートにまとめ、こちらが理解しやすいような言葉を選ぶ、そんなお人柄の小山ドン足さん。木目を塗ることから開放された抽象画、風景画、そして自身の絵画人生のスタート地点にあった「月の絵」。これら新たな絵画の発表が今からとても楽しみである。
小山ドン足
漫画家を目指して描き続けていたが10年を区切りに新たな人生へ。その後、壁画制作を経て、木板にペンキで抽象画を描くスタイルを確立した。独学で習得したオリジナルの調色からなる鮮やかな色彩で、特徴的な絵画を制作している。
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