
突然訪れた絵画との出会い
ー絵を描き始めたきっかけを教えてください。
小さい頃から漫画雑誌やアニメを観て、真似して絵を描いてました。当時、習うなどの特別な勉強はしていませんでしたが、美術は好きでした。中学校の美術の授業で、幾何学的に細かくブロック分けしたピーマンの絵を描いたことがあるのですが、先生に下書きを見せたら、「すごくよく描けているから、仕上げてきたらいい点数をつけますよ」と言われました。小さなピーマンを5,6個横に並べた絵だったのですが、提出日が翌日でしたし、数が多いのも大変で。3個ぐらいに減らして提出したら、すごくがっかりされた記憶があります(笑)。
本格的に絵を描き始めたのは短大生の頃で、たまたま行ったデパートでノーマン・ロックウェルの展示を観たのがきっかけでした。展覧会に行く習慣はありませんでしたし、時間があったから観たという感じで、彼のことは全く知りませんでしたが、こんな風に絵が描けるんだ!と、とても感動しました。それで自分も描いてみたくなり、スケッチブックと72色の色鉛筆で描き始めました。今の絵の原点です。そこから、展覧会に行くようにもなりました。

アクリル絵の具で描かれた絵
当時は、いろいろな画材に興味があり、いろいろなものを描きました。ロックウェルの影響でアクリル絵の具を買い、画集を見て模写したり、犬や猫も描いてみました。猫は中学生の頃から飼っていたのですが、最初は色鉛筆で描いていました。その後アクリル絵の具を使ってみたところ、色鉛筆とは勝手が違うので難しく、結局は色鉛筆に戻りました。色鉛筆の方が描きたいと思った時にすぐ取り掛かれますし、始めるのも片付けるのもすごく楽なんです。
油絵も描いてみたくなって習いましたが、やはり違うなと感じてすぐにやめてしまいました。デッサンを習ったことはありませんし、色鉛筆での描き方は完全に独学です。絵の基礎的な教材など、いろいろな本をたくさん買って勉強しました。
あらゆる方面からの影響で変化した表現方法
ー最近の絵画、ぼかしが綺麗で印象的です。
昨年、水彩画家の永山裕子さんの書籍を読んで、とても影響を受けました。どの作品もぼかしがすごく綺麗で、私もしてみたいと思って水彩絵の具を使い始めました。
もともと背景を描くことが苦手で、どんな風にすればいいかわからなかったこともあって、メインのモチーフだけの絵が多かったのですが、ぼかしを使って背景を描いてみると絵にぐっと深みが出るということを実感しました。背景があると、より絵画っぽくなるのかなと思いました。
今は水彩とパステル・色鉛筆の合わせ技みたいな感じで、猫などのモチーフは色鉛筆で描いて、背景はパステルや水彩で描いています。
もう一つ、最近変化したのがモチーフの描き方で、あまり細かく描きすぎないように気を付けています。初期の頃は毛並みを一本一本、それこそ全ての毛を描く勢いで描いていましたが、今はやめています。というのも、2年ほど前、オーダーで猫を描かせていただいた時に、依頼された方に絵をお見せしたら「お顔の影や、骨格の影を消して欲しい」と言われました。亡くなった愛猫さんの絵だったのですが、「そっくり過ぎると悲しくなる」とのことで。確かに、観るたびに悲しくなってしまうのなら、あまりリアルに描かない方がいいのかなと思いました。それから少し考える時期を経て、今はあまり細かく描き込まないようにしています。

作品名:うららかに
ーオーダーを多く受けていらっしゃるんですよね。
そうですね。亡くなった愛猫や愛犬を描いてほしいとおっしゃる方が多いです。写真をいただいて、それを見ながら描くのですが、つい写真通りに全部描きたくなってしまいます。リアル過ぎないようにするにはどこを削ればいいのかな、といつも悩みます。毛並みと目の質感も違いすぎないように、また、全体を見たときに背景から浮かないように気を付けています。まだまだ勉強中ですね。
ー普段描かれているのはご自宅の猫ちゃんですか?
はい、自宅で飼っている猫の写真をたくさん撮り溜めていて、いろいろなポーズがストックしてあるんです。飼っているのは1匹ですが、飼い猫をモデルに模様を変えて描いたりしています。それから、実家にいる時に飼っていた猫の写真もたくさんありますし、昔はよく猫カフェに行っていて、そこの猫ちゃんの写真もあるので、それらを見て描くこともあります。かわいい表情や仕草を見ると描きたくなります。動画を撮って、動画内の気に入ったポーズで止めて描くことも多いです。
ーよく羊皮紙風ペーパー※を使われていますが、支持体を選ぶ時のこだわりやルールはありますか?
羊皮紙風ペーパーは昔から好きでよく使っています。風合いが好みなのと、色鉛筆での描きやすさ、それから油性色鉛筆をぼかすメルツペンというものがあるのですが、その描画にある程度耐えられる強い紙なので使いやすさもあって。ただ、しっかりした紙ではありますが水に弱いので、水彩絵の具では水分で波打ちしてしまいます。そういった理由もあって最近は水彩紙を使っています。水彩紙も真っ白じゃないものも持っていますが、もっとしっかりと色が付いたものを使ってみても面白いかも知れないですね。
※羊皮風ペーパー:中世ヨーロッパで使われていた、動物の皮を加工した羊皮紙の風合いや質感を再現した紙。繊維の流れや色ムラを活かした模様があり、アンティークな雰囲気がある。
ー支持体とモチーフを合わせる時のルールはありますか?
こんな猫ちゃんを描きたいなと思ったら、まず、紙のサイズを決めます。上半身だけなのか全身なのかでもサイズは変わってきます。紙のサイズや質感は、何種類か揃えて試していますが、特にルールはないです。

羊皮紙風ペーパーを使用された作品 作品名:大丈夫
身近にある大切なものを描き続ける
ーワンちゃんも時々登場しますが、動物ではないモチーフを描かれることもあるのでしょうか?
あまり描かないですね。今は植物、犬や猫ばかりです。風景画は描けたらいいなとは思いますが、描こうとは思わず、どうしても猫や植物など「好きなもの」を描いてしまいます。
長く猫を描き続けていますが、飽きたことはありません。新しく、別の何かを描きたいと思ったとしても、新しい「~の猫」なんです。珍しい種類とか、かわいい仕草とか。やはり身近にある好きなものを描いているんだと思います。庭に咲いている花を描くこともあります。育てているものもあれば、勝手に生えてきた野草もあります。絵を描くことが生活の一部になっているので、そういう身近なモチーフになるのかもしれません。

作品名:「かくれんぼ」
ー作品「かくれんぼ」は、抽象と猫、花との溶け込み、組み合わせがとても魅力的です。
この絵は、最初に背景を描いてみようと思って、紙一面に顔料を水で吹きつけてできた形の中に猫を描きました。先に背景を水彩で描く場合は、偶然にできた滲みを活かして描いています。滲み方によっては、猫だけよりも植物を入れたほうがまとまる場合があるので、そこは全体のバランスを見て描くようにしています。
背景もモチーフも決めてから描き始めると、途中で考え通りにいかなくなることがあります。特に背景に関しては、頭で考えるより、実際に手を動かしながら進めていく方がやりやすいです。
変わらないモチーフと変わっていく表現
ー絵画に対するこだわりは何かありますか。
下描きから完成まで、すべて手描きというのがこだわりです。下描きの段階が一番楽しかったのですが、今は背景を考えることも楽しくなっています。
それから、自然に溶け込むような、癒されるような絵を描きたいと思っています。観てくださる方にそのように捉えてもらっているかはわからないですが、あまり作りこんだ感じではなく、自然な絵を描きたいとずっと思っています。かわいいなと思ってもらえるような、部屋に飾りたくなるような絵を目指しています。
ー今後やってみたいこと、挑戦したいことがありましたら教えてください。
本格的に水彩画を描いてみたいです。今は、部分的にしか水彩絵の具を使っていないので、今後はモチーフにも使って、より水彩画らしく見えるような絵画の制作に挑戦したいです。全体的にあまりはっきり描くのではなく、滲みやぼかしを使った透明感のある絵を描いてみたいです。
それから、花はまだそんなに描いていないので、花だけの絵ももっと描いてみたいですね。猫や花を新しい技法に挑戦して描き続けていきたい、表現の幅を広げていきたいと思っています。
<取材を終えて>
毛並みの一本一本にまで神経を宿らせるような細かい描写で、観る人に亡くなった愛猫の命までも感じさせたCHI☆YOさん。その描写は、モチーフにむけられた愛情の深さがあっての賜物だろうと感じる。彼女の描く人間や、風景も観てみたい気持ちが湧き上がるが、それでは彼女の絵の良さを引き出すことができないのかもしれない、とも思うのであった。
CHI☆YO
モチーフを丁寧に観察し、真摯に画面に描き出していく。そこから引き算をしたり足し算をしたりして、自然に溶け込む美しい絵画を制作。手書きで一点一点、丁寧に仕上げられる作品には、温かい愛情が込められている。
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