小さい頃から絵を描く仕事をすると決めていた
ー絵を描き始めたきっかけを教えてください。
絵を始めたきっかけは、特に思い当たらないんです。子どもの時に絵を描くと「上手だね」と大人に言われていたので、そういった事の積み重ねで絵が好きになったというか、描き続けてきたのかなと思います。小さい頃から絵を描く仕事をしようと決めていました。
ー絵のお仕事を始められた時には、既にデジタルで描かれていたのでしょうか?
仕事を始めた時は完全にアナログでした。幸運なことに、いきなり書籍関係のデザインやイラストを請け負っている会社に入れていただくことができたんです。スキルも全然なく、職種未経験でしたが、「そちらで絶対に働きたい」と熱意を伝えて。ちょうど会社がデジタルでの制作を導入するタイミングだったので、みんなでデジタルを覚えよう、という雰囲気の中でイラストレーターやフォトショップを教えてもらい、学びながら仕事をしました。これが、デジタルで制作するようになったきっかけですね。小さい会社で、皆さんとても優しくて。本当に感謝しています。
ーデジタルとアナログで描いてみて、難しかった事など違いはありましたか?
デジタルだとキーボードのショートカットキーで、元に戻せるんですよね。たまに手で描いたとしても左手でコマンドzをしている自分がいます。消しゴムで消さなくていいので、そこがすごく好きです。もう全然手で描かなくなりましたね。
新しい色彩の発見
ー現在デジタルとアナログ水彩を組み合わせて制作をされていますが、これは実際にアナログの水彩で描いているのではなく、デジタル上で水彩ペンを選んで描かれているという事なのでしょうか?
描画自体はイラストレーターを使用してベクター※で描いているのですが、色彩はアナログで描いた水彩画をスキャンしてPCに取り込み、ベクターで描いた絵に反映させています。
※ベクター:点や線によってある形を構成、描画すること。
アナログ水彩を使ったきっかけですが、子供が小さい時に、一緒に水彩絵の具でいろんな色をポタポタと紙に落として塗って遊んでいたら、それがすごく綺麗だなと思って。それをイラストレーター上に配置して、ベクターの絵に反映させてくっつけたらすごく綺麗な絵になったんです。

スキャンして使用されるアナログ水彩画
綺麗な色を紙いっぱいにランダムに塗って、それをスキャンして取り込んでイラストレーター上に配置して。まずはデジタルで均一に色を引いて描くのですが、そこにアナログで描いた色を重ねると、夢のような色になる。そこに、さらにデジタルでも色を足して描いていきます。全て偶然や気付きでできていきました。
ー色彩のベースがアナログで作られるということでしょうか?
いえ、たまたま水彩のスキャン画像を貼っただけで、基本はイラストレーターで描いているので、ベースというより一つの方法、ツールのようなものですね。でも、両方とも必要ですね。両方ないと魅力的な絵にならないかもしれません。アナログ水彩の色がないと、受けるインパクトが全然違うんですよね。ベタな色塗りだと何にも伝わらないように思います。一番大事にしているものが色かもしれません。
ー大事にされている色彩を表現するためにも、アナログ水彩は重要なのですね。
ざっくり感とかランダム感がすごく好きなのですが、デジタルではどうしても規則的になってしまって、そういう表現をするのが難しいんですよね。そのざっくり感とかランダム感はやはり手描き、ニュアンスが大事だと思うので、そうなるとデジタルのみではしたい表現に近づけられないのかもしれませんね。
スキャンしてデジタルと組み合わせた時は、「降りてきた……!」と思いました。とても綺麗な色が画面上で出た時、「天才かも」と(笑)。絵を描く人は誰でもそういうひらめきのような経験があるのではないかと思いますが、アナログをデジタルに重ねて綺麗な絵ができた時は、感動しましたね。

作品名:「ビター」(1/10)
ーアナログで絵を描かれていたときは水彩画だったのですか?
仕事で描いていたのは水彩画ではなく、書籍の中ページや、雑誌の説明の挿し絵ですね。鉛筆で下絵を描いて、ロットリングというペンで黒い線を描いて、乾いたら消しゴムをかけて。漫画家さんみたいな感じでした。こういうのを描いてという依頼で原稿が来て、その通りに描く、商業イラストレーターですね。割と苦しかった記憶があります。私は絵が下手だと自分自身で思っているので、上手に描けている気がしなくて。でも長くやっているとだんだんこなれ感が出てきて、苦しくなく、経験値から上手に描けるようになったかなと感じていますけどね。若い時はすごく大変で、苦しんで描いていた気がします。「好きなことを仕事にするのはつらい」とよく言いますが、まさにそれだなと思っていました。
水彩と組み合わせて、本当の意味での自分の絵を描き始めたのは、割と最近なので、まだ新人さんみたいな気分です。
ー現在はフリーランスでお仕事をされているとのことですが、退職されてからも同じようなお仕事の依頼を受けていらっしゃるのですか?
すごく飽きっぽくて色んなことを経験したり挑戦したりしてみたいので、45歳からWebデザインの仕事も始めました。書籍関係の仕事をずっとしていたので、Webデザインはできなかったんです。すごい面白そうだと思って面接を受けて、採用していただいて。本当にラッキーだと思うのですが、いろいろ教えていただきながらスキルを身につけることができました。
全然関係ない話ですが、占いの本に「困ったら助けてもらえる運勢だから絶対大丈夫」と書いてあったので、絶対誰かが助けてくれるから私は平気だと思って生きてきていますね。心の中にそういう思い込みがあるので、図太いのかもしれません。なんでもやってみたいと思っています。
私自身の根底に「自由」があるので、ストレスフリーに、自由に生きようと思っているんです。すごく緊張する性格ですし悩むこともありますが、それはみんな一緒ですよね。
無意識に理想形に見てもらえる「空白」
ーオリジナルの女の子はどのような経緯でできあがったのでしょうか?
昔から女の人の顔を描くのが好きで、水彩画を始める前にも線画でよく描いていました。いわゆるアニメっぽい顔は好みではなくて、人間の顔ではあるけれど、かっこいい、綺麗なものを描きたいと思っていて、今もずっとその延長線上にいるのかもしれません。
絵を描いていると自分の中でブームがあって、ゴスロリみたいなものばかりを描いていたり、かっこいい雰囲気のものばかりを描いていたり、そういった流れはありますね。今は怖いというか、意地悪そうな顔を描くのがブームです。
それと、目はこだわって描くようにしています。何度も何度も手直ししますね。目で気持ちが表現できているか、自分で悲しい顔や苦悩の顔など、鏡を見ながら描くのですが、難しいです。

作品名:「従順になれない」(1/10) の一部分
心情を伝える目の表現に注目したい
ーお顔や手の輪郭線は、あえて描かないようにしているのですか?
そうなんです。一時期、ずっとマスクをして生活していましたよね。その時に、例えば目が綺麗だとマスクで隠れている部分も綺麗だと思い込む、みたいに、見えている部分の状態から、見えない部分を希望的観測で見るのが人間の脳だという情報をテレビで見たんです。それを応用して、顔の輪郭をあえて描かないと、見る人がその輪郭を理想形に見てくれるのではないかと思って、そうしています。手などもはっきりと線で描かずに、ざっくり薄い色で描いています。見る人に見方を委ねる描き方をしようと去年から思い、そうしています。

作品名:「スウィート」(2/10)
ーお花もよく描かれていますよね。
お花ブームの時にたくさん描いていました。またしばらくしたら、何か新しいモチーフが入るかもしれません。その時その時で、描きたいものを楽しく描いていますね。
こういうのを描いた方がいいかな、みんなが喜ぶかな、かっこいいかなとか、そういう理由ではなく、「描きたい」と感じるものしか描かないようになっていますね。無理をしないというか。テレビなどを見ていて、ひらめいたら描きます。仕事も含めて、小さい作品も大きい作品も、数えきれないほど本当にたくさんの絵を描いてきて、多分疲れてるんだと思います(笑)。
ーキャンバスは自作されているんですか?
いえ、企業さんに依頼して制作していただいています。名刺印刷など、データをアップすると作ってくれる会社がありますよね。それと同じで、サイズ通りにデータを作って送り、仕上げてもらいます。
購入してくださった方が、紙よりもキャンバスの方が、「買った感」があって嬉しいんじゃないかなと思って、この形に決めました。キャンバスですと額装しなくても飾れますし、厚みのある木枠は高級感があって好きですね。
以前、いつもと違う会社にお願いしたら、発色が全然違った事があって、印刷屋さんも慎重に選んだ方がいいんだと勉強になりました。日々学んでいます。
好奇心に駆り立てられる新しい挑戦
ー今後やってみたいこと、挑戦したいことがありましたら教えてください。
去年神保町で個展を開催しましたが、今後はグループ展に参加したいと考えています。絵画関係の知り合いも増えてきましたので、青山などにある小さなギャラリーでできたらいいなと思って、毎週のように見に行って勉強しています。
それから装画に憧れていて、装丁家の方が主宰されている装画塾に去年から通って勉強させていただいています。大好きな小説家さんの装画に使ってもらえることを目指して、頑張っています。装丁家さんに絵画を提供して入れてもらうっていう。
現在の絵のタッチで表紙になった経験があまりないので、好きな作家さん、例えば東野圭吾さんや宮部みゆきさんなど、上の上を目指して頑張ろうと思っています。小説がすごく好きなんですよ。実現はかなり難しいと思いますが、そういう高い目標に向かってモチベーションを高めているというか。
ー楽しみにしています!
頑張ります。頑張るのが楽しいんです。やる気はないけど、好奇心がある。好奇心と気分で生きていますが、それができるのは、周りの人が本当に優しいおかげだと思います。「ありがとう」をたくさん言っていきたいですね。
私の絵にキュンとしてくれる人がいたら、飾ってくれる人がいたら、もうそれだけで幸せだなと思います。本当に見てくれる人がいるだけで嬉しいなと思います。
<取材を終えて>
明るく、お話がどんどん溢れ出てくる。整理しきれないほどの想いがたくさんあるのではないだろうか、と少し考えさせられる。エネルギーに満ち溢れ、自由に貪欲に新しい事に挑戦していく姿に感銘を受けた。

ワタナベ カズコ
偶然のひらめきを大切に、色彩にこだわったイラストを制作されています。デジタルとアナログ水彩を組み合わせ、夢のような色彩表現を実現、鮮やかな絵画は、観ているこちらまで優しく包み込んでくれるようです。
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