Interview

「チカラ」を宿す制作|絵画に昇華される切り取られた風景の魅力

力強い筆致で、大胆に切り取った外国の風景を多く描かれている中田航平さん。深みのある色彩は、豪快ながらも落ち着いた雰囲気を感じさせます。日常生活では見過ごしてしまいそうな場所にスポットを当てて絵画を制作される背景、そこに込められた想いを伺いました。

巨匠たちの人生に感動し、自らも表現の道へ

ー絵を描き始めたきっかけを教えてください。
幼少の頃、教科書やノートに落書きばかりしていました。その頃から、絵を描くことが好きだったんだと思います。油絵を描き始めたきっかけとしては、ふと自分を表現したいと考えた時、自分にできる唯一のことは絵を描くことだと思ったんです。「絵と言えば油絵」という認識だったので、そのまま自然と道具を買い揃え、独自に描き始めました。それが大学2年生の19から20歳の時、今から約5年前ですね。水彩でもアクリルでもなく、鉛筆や木炭デッサンをすることもなく、いきなり油絵です。美術館に飾られている絵に感動して、あんな絵を描きたいと思ったんですよ。その絵を描くためにはデッサンなどの練習をする必要がある、ということすらわからない程、始めた当初は絵の知識がありませんでした。

最初は本を読んで勉強もしましたが、そこからはもう自分の思うままにやっていますね。美術の勉強をされた方には、それ違うよと思われるようなことがあるかもしれませんが、僕はこれでいいやって。それも魅力の一つだと思っています。

油絵を始められた頃の作品

ー大学は美術とは関係ない分野だったのですか?
そうですね、歴史学科でした。在学中に絵が好きになったので、その中で西洋絵画史を勉強したんです。美大ではないので、歴史も含め美術関係の勉強は元々一切やっていませんでした。美術館で絵を観て、絵だけではなくその画家の経歴や年譜を読み、それから自分でも実際に絵を描いてみることによって興味が湧いて勉強しました。

ジョン・リウォルド著の「印象派の歴史」という小説を読んで、若い画家たちが印象派のグループを結成して、運動を起こしていくという動きが、サークル活動や部活動に似てるなと思って、そういうところが好きですね。作品だけではなく、画家自身の生涯や、グループ内の対立、そこにある人間ドラマのような部分に魅力を感じてより一層、絵が好きになりました。

ー特に影響を受けた画家はいらっしゃいますか?
フランスの美術館で初めてユトリロとモディリアーニを観て、印象派の美しさとは違った重々しさというか、ざらつきが感じられる作品にはとても影響を受けました。その他、佐伯祐三や荻須高徳などは、恐らくユトリロの影響を受けた方々だと思うので、僕もユトリロの影響を受けるにあたって時代が下っていき、当然彼らの影響も受けたなとは思います。

ただ、例えばユトリロの作品を観すぎると、自分が描く絵がユトリロの作品に似ていってしまうと言いますか、気に入ってしまって、無意識にどんどん寄ってしまうんですよ。影響を受けすぎてしまうんです。なのでどの作家の作品も、正直あまり観たくないという気持ちがあります。

他の絵を描かれている方たちと比べると、僕は全然美術館にも行っていないと思いますが、いわゆる巨匠の絵は機会があればできるだけ観ておこうと思っているんですけどね。どんな絵を見ても感心しちゃいますね。名前を聞いたことがない方の作品を見ても、いい絵だなと思うんですよ。

ー中田様のフランスの街並みを描かれた絵画が印象的です。
フランスに親戚が住んでいるので、2023年に3ヶ月間滞在させてもらったんです。その時によく美術館に行っていました。ルーブルやオルセー、他にもそこを拠点にしてイタリア、スペインへも足を伸ばし、本物の作品を観て、画家たちが描いてきた景色の中を実際に歩いて写真に撮って、それを元に描くことが増えました。なので、現時点で発表している作品は2023年以降に完成した作品が中心になっています。その時の経験は制作にとても活きていると思いますね。

たくさん撮影された写真の一部

ー写真を撮る時点で既にこの部分を絵にしたいと思われているのですか?
いえ、たくさん撮って、その中のちょっとした部分を切り取って絵にします。俯瞰的に写真を撮ってから細部の何かを描くという形ですね。この構図でこういう絵をこう描きたいとか、そういうことは意識せずに過ごして、撮ってから絵にしたいものを探します。

注目されない存在を絵画として主役に昇華させる

ー建物の一部など視点が近い作品が多くあるように思いますが、そこに惹かれる理由はあるのでしょうか?
最初はやはり印象派風の絵画、要は色彩豊かな風景を俯瞰して描いていたんです。綺麗ですし、自分も絵を描き始めた当初はそういう作品に憧れて、淡い色彩や綺麗な絵を意識していましたね。

ですが、それはすでに多くの方が描かれていますし、手の加えようがないように感じるんです。綺麗な風景、自然を見ると、自分がわざわざ手出しする必要がない、その風景をわざわざ絵にする必要がない、という感覚になるんです。

今はそういう気持ちなので、あまり人目に当たっていない部分を絵に昇華してあげるというか、そういう可能性もあるんじゃないかと思っています。そこらにある落ち葉や床、つまりは絶対に絵にはならない、主役にはならないだろうなと感じられるような物を主役にしていくことを意識していますね。

それから質感を重要視していて、ナイフで絵の具を削り取るなどしています。

作品名:ニースの壁と植物

ー絵を描いてみて、表現する楽しさを感じられる瞬間はありますか?
そうですね。売れようが売れまいが、納得のいく作品が描けた時には表現の楽しさを感じます。でも、そうそう納得いく作品も描けないので、表現というのは一筋縄じゃいかないというか、難しいですね。表現と一言で言っても、そう簡単にはコツも掴めませんし、たくさん失敗しています。何度もキャンバスを駄目にして、乾くまで待って、その上からまた描き始めて。その繰り返しで仕上げることも多いです。キャンバス一つとっても、やはりそこには費用がかかるので、極力無駄にせず向き合っています。何度も失敗する中で、これが自分の表現したいものだ、と感じられる作品ができた時にはとても楽しく感じますね。

ー抽象画での表現を試そうと思われたことはありますか?
抽象画は、正直あまり得意じゃないといいますか、今の自分の肌に合わないように感じています。抽象画には作家のいろいろな想いが詰まってると思いますが、それがどうしても独り歩きしすぎているような気がしてしまって。自分が制作するとなると、好みではない、というか違う気がしています。

ー彩度の低い色彩には何か理由があるのでしょうか?
描いている風景の中に、例えばピンクがあればピンクも使うでしょうが、僕自身の色彩の好みとして、パキッとした明るさのあるものよりも、くすんだ色や汚れた感じのものが好きなんです。描いているもの自体、実際にそういった色味のものが多いですし、特に意図しているとか、理由があるわけではなく、自然とそうなっていきました。

モディリアーニの作品もそうですが、近くで見ると細部はそんなに丁寧に描かれているわけではないんですよね。色の霞みがあったり、筆がかすれてしまっている部分があったり、それでも作品として出来上がっていて、むしろそれが味になっている、そういう雰囲気のある作品が好きなんです。鮮やかではなくとも、色彩と色彩との交わりが、本当に美しいと思いますね。そういった色彩の絵は、おしゃれなカフェなどにも合うと思います。フランスやスペインの落書きされた壁や、アメリカのスプレーグラフィティとかに憧れますし、そういう絵の方が、鮮やかな田園風景や森を描くよりも好きですね。

「チカラ」の宿る絵画を制作したい

ー絵に対するこだわり、マイルールはありますか?
「チカラ」が宿っているというか、観る人を圧倒させるような、そんな絵を制作したい、という想いがこだわりとしてあります。描いている対象はたいてい名所でも何でもないわけですが、ちょっとした壁や、玄関でも何でも、それから絵自体がどれだけ小さくても、「チカラ」が宿る、入ってくれるといいなと思っています。重厚感というか、重量感というか、そういう絵画の存在感みたいなものが画面から出ればいいなと。

作品名:ある玄関(フランスにて)

例えばゴッホなどの絵を見てもそうですよね。細部までよく観てみると、一体どうなってるんだと、ある意味で雑にも感じられる部分がありますが、実物を観るとその素晴らしさに圧倒される、そういう「チカラ」を感じるんですよ。とても難しいことだと思いますが、意図的に、意識的に、そういう「チカラ」を発する絵画を描いていきたい、そういうこだわりを持ってやっていますね。

ー「感じる」ことなので難しいかと存じますが、そのためにこうしていこう、など方法は何かあるのでしょうか?
いつも割と考えてるつもりなのですが、なかなか……。例えばですが、ものすごく貧しい暮らしをするとか、自分自身を究極の極限状態におくような、そういった意識をガラッと変えるような転機が必要かなと思ったりします。ただ今は、もっともっともっと必死になって、考えに考えを重ね、突き詰めていく、それしかないと思っています。

意図せず偶然生まれるものもあるとは思いますが、偶然生まれて喜んでいては駄目なので、なるべく意識的に起こせる力を身につけたいですね。絵を描き続ける限りは人生を懸けて、それを目指してやっていかないといけないと考えています。技術的な面ももちろん大切だと思いますが、表現には内面が大きく関わっているはずなので、そのように強く思います。

ー今後やってみたいこと、挑戦したいことがありましたら教えてください。
個展など、自分の絵を皆さんにもっと知ってもらう活動をしていきたいですね。Instagramも始めたは良いものの、何をしていいかわからず停滞してしまっているので、そういったSNSも活用して、自分の絵を世の中の人に知ってもらう、見てもらう、それを活動の第一歩として、これからもどんどん進んでいきたいと思っています。

夢は、いつか美術館に絵を置いてもらえるような画家になることです。

<取材を終えて>
口語ならではの柔らかい表現を選び、元々の思考にプラスアルファの考えを入れてお話されているように感じられた。聡明で、思慮深く、制作に真摯に向き合う姿が見える。どこか懐かしく感じる、でもモチーフは新しい、そんな中田航平氏の次作が早くも楽しみである。

中田航平

中田航平

フランス滞在時に写真に撮った景色や、旅行で訪れた美しい場所など、存在する風景にご自身が表現したいことを反映させ、チカラのある絵画を制作している。

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