Interview

いつ降りてくるかわからない「その瞬間」|視覚から始まる想像の世界が生み出す独自の絵画

全て同じ人が描いているのだろうかと疑問に思うほど、バリエーション豊かな作風を持つ朝希さん。その自由な世界観と、絵画につけられるタイトルやコメントが楽しい気持ちを運んできてくれるようです。どのような背景や思いからその表現に至るのか、お話を伺いました。

観てもらうことで意識付けられた「絵」の存在

ー絵を描き始めたきっかけを教えてください。
小学校5年生の夏休みの課題で、たまたま近くにあったワインボトルを鉛筆で描いてみたんです。その作品を学校の先生やお友達に見せて「すごいね」と言われたことが、絵に目覚めたきっかけというか、絵に関して思い出す印象深い出来事ですね。公の場で多くの人に観てもらい、褒めてもらったのはその時が初めてでした。

それまで私にとってはただ「描いた物体」でしかなかったものが、人に観てもらっていろいろな感想や評価をいただくことで「絵」になったと言いますか、絵を描くことの素晴らしさを実感した瞬間でしたね。自分の中で何かが目覚めたというか、眠れる獅子が起き上がったというか、そんな気持ちで。いろんな絵を描いてみようと思ったきっかけです。

ーそこから本格的に絵の勉強を始められたのでしょうか?
習うなどの専門的な勉強は全くしていないですね。私の勝手な考えですが、誰かに教わると誰かの絵になってしまうような気がするんです。自分の絵は自分から湧き出たものを描く、と決めているので、感覚や筆の運び方など全て独自でいようと思っています。

カーク・レイナート氏が大好きで作品も所持していますが、好きだからといって同じような絵を描こうと思うことはないんです。いくら好きでも、影響を受けることによってその方に寄せた絵になってしまうのは不本意で、朝希は朝希でいこう、と。そこは頑固に貫いていますね。

ーずっとオリジナルスタイルで絵を描き続けているとはすごいですね。
絵を描くこと自体が好きなんだと思います。日頃の生活の中で、見たもの感じたものを描き続けていますね。成長するにつれて物事の見方や感じ方も変わっていきますので、同じものを描いても、その時その時で何かしら、どこかしらが変わっていく、感覚の変化に伴って、描き方も変化し続けていくのが面白いです。絵を描くことはアウトプットの場でもありますし、ずっとコンスタントに何かしらを描いています。

視覚から始まる想像の世界が制作の源

ー幅広いジャンルの絵を描かれていますが、モチーフはどのように決めるのですか?
「その時に自分が見たもの」が主なモチーフになります。例えば夕焼けがものすごく綺麗な空を見た時、その色からイメージが広がっていくんですよ。ブルーとオレンジの境目、それがレモンやオレンジのシャーベットに見えて、それなら空に浮いているカクテルバーがいいなとか、そんなことを想像して、それをそのまま絵に描きたくなりますね。

画材屋さんに行って絵の具を眺めることも想像力を運んでくれます。例えば赤でもいろんな赤があるので、ダークな赤が魅力的だと思ったら、その色から描きたいものがどんどん頭に浮かんでくるんです。

そういう感じで始まるので、自分でもいつモチーフが生まれるかわからないんですよ(笑)。何をしてても絵に繋がっていきますね。道を歩いていても、高速道路を走っていても、お店に入っても、その瞬間に見たものから想像が膨らんで、絵になっていきます。それでバラエティーに富んだ絵になるんだと思います。

表現したい内容によってそのまま描画材を決めることも多いですね。例えば夕焼けですと、やはりぼかし、グラデーションが欲しいので、アクリルより水彩だな、とか。

作品名:「オムニバスサンライズサンセット」

他の方々の絵を見ていると、パターンを決めて描いていらっしゃる方が多くて、すごいなと思います。自分はその時の気持ちでモチーフも描画材も決めるので、水彩だったりアクリルだったり、時には鉛筆だったり、いろいろやっていてめちゃくちゃで、統一性がないですね。好きなように描きます。これという決まったものがないところが、自分の面白いところでもあるかな、とも思っています。

ー絵の具では大胆な描写が多いように思いますが、鉛筆ではすごく精密に描かれますよね。
そうなんです。鉛筆画の時はモチーフの見方も違いますし、時間をかけて描いていますね。写真を凝視しながらかなり細かく描きます。鉛筆画を丁寧に丁寧に、ものすごく細かいところまで描いた後にアクリル絵の具の筆を持つと、余計に大胆になる気がします。細かい作業から解放されたような感覚でばーっと自由に描けますね。

 

作品名:​​「寝てないよ」

どの絵もすごく楽しんでいます。出来上がった絵を観て、これが「私の描きたかったものだ」と感じられるとすごく達成感があるんです。

ただ、そんな風に満足できる仕上がりにならない時ももちろんあるので、そうなると一度手を止めて、自分が描きたいものを改めて探す旅に出ます。脳の旅に出るイメージで、目を遊ばせに行くような感じです。特にドライブが多いですね。車で走っている時に、遠い山の景色、または近くで飛んでいる鳥など、そういうものを見ていると、また新しく描きたいものが見つかっていきます。大分に住んでいるのですが、こちらは自然が豊かで緑が多いので、そういうグリーンが目の刺激になります。

楽しい気持ちで制作することが良い作品を仕上げる

ー精神状態が絵に反映されていると感じることはありますか?
はい、精神状態はすごく関係があると思っています。だからこそ、自分の精神状態が悪い時は絵を描きたくないですね。自分のマイナスな部分や、落ち込んでいる気持ちのぶつけどころとして絵を描いたこともありますが、結局そのようにして仕上げた絵はあまりいい絵ではありませんでした。落ち込んで、沈んでいる状態を表現しようと思うと、やはり色使いもモチーフも、楽しい絵じゃなくなるのをすごく感じるんです。そういう状態で描く絵に自分自身が満足できないので、描いたとしてもさよならしていますね。

絵を描きたいがために、落ち込んでもすぐに起き上がるようになりました。落ち込んでいると、自分自身がいい色じゃないと思いますしね。自分自身の色も、目を閉じるとオレンジかな、黄色かな、と明るい色をイメージするようにしています。暗い海の底のような色の自分では絵を描かないようにする、これもこだわりの一つかもしれません。

ー他にもこだわりやルールはありますか?
自分自身がお部屋に飾りたくなるような絵を描きたいと思っています。自分が飾りたい絵だと、他にも同じような気持ちになってくれる方がいらっしゃるかな、と思いますので、そこもルールと言いますか、こだわっているところですね。

今の世の中が、どうも暗い雰囲気になっている印象がありますし、物価高などで大変な時期を過ごされている方も多いと思うので、絵を通して幸せな気分を少しでも届けられたらいいなと思います。福を運んでくると言われるフクロウを描いて、玄関などに飾ってもらいたいな、とか考えますね。

ーメッセージ(文字)を入れられたり、コラージュされたり、絵からハッピーな気持ちが伝わってきますが、こちらもそういった想いからくるのでしょうか?
それは単に私が大好きだからです(笑)。文字が大好きで、梵字や、英語の筆記体、ヒエログリフなどの古代文字を見るとすごくわくわくしてくるんです。麻の紐でコラージュをしたり、羽を貼り付けたり、ペンキを使っている作品もあります。

羽はいろいろな種類をまとめて購入しておいて、使いたい時にその中から選びます。色や形、たくさんバリエーションがあるので、選ぶのも楽しいですね。ペンキは、絵とは関係ないところで、普段から自分の靴に垂らして可愛くリメイクするので、いろんな色を常備してあるんです。それらを絵にアクセントをつけるために使ってみたら、本当に楽しくて。

※ヒエログリフ:古代エジプトで使われた象形文字

作品名:「ずっと友達」 本物の羽が大胆に貼り付けられている

絵を観て楽しい気持ちになっていただければ嬉しい、という想いがあるのはもちろん、自分自身も作品作りを心から楽しんでいますね。

ー朝希さんのプロフィール写真も古代エジプト風ですよね。
この絵は自分が描いた絵の中で一番好きな絵なんです。この絵を描いた時、最初は販売しようと思っていたのですが、ふと「誰の手にも渡したくない」と思い、ずっと自分の部屋に飾っています。自分が好きだと感じるものが詰まっているんですよ。ヒエログリフと麻の紐、それから土台のグリーン、そのグリーンとローシェンナの色の組み合わせ、自分の好きなもの全部がギュッと詰まった作品です。

作品名:「魅惑のエジプトヒエログリフ添え」

ー今後やってみたいこと、挑戦したいことがありましたら教えてください。
簡単には叶わないと思いますが、大きな壁に絵を描いてみたいです。壁画ですね。エジプトの壁画など古代の絵画が好きなので、自分も描いてみたいなと思います。夢ですね。

ー自分のスタイルを大切にしているとのことでしたが、ご依頼があった場合はその希望通りに描くのでしょうか?
そこは自分でも未知です。お願いされると恐らくプレッシャーになるでしょうね。そうすると、自分がこだわってる「自分なりの何か」という存在から遠ざかってしまうような気がします。なので、その場合は少し時間をいただいて考えると思います。完全にオリジナルで、と任せていただけたら最高ですね。

<取材を終えて>
心の中に吸収したものを独自の世界に重ねて絵画に落とし込む、そんな柔軟性を持ちながら、こうと決めたら曲げない強い意志を持っている。さらにそんな自分自身を楽しんでいるように感じられた。悲しいことがあっても、あははと笑い飛ばしてくれそうな絵画の、その魅力の理由がわかったように思う。

朝希

朝希

楽しい気持ちで絵を描いて、楽しい絵を作り上げる。観賞者に幸せな気持ちを届けたいという想いと、自身の描きたいものを描く、という正直な気持ちの相互作用により、多くの人の心を掴む絵画制作をしている。

View Profile
More Articles